コミュニティーとみどり豊かな住まいづくりの実践

—目黒・生活者ネットワーク設立十周年記念講演—

 新しいまちづくりの手法で脚光を浴びている甲斐徹郎さんを講師にお招きし、そこに住む人の歴史を活かした住まい作りや共同住宅作りの実践を伺いました。より快適な住まい方を求める甲斐さんのまちづくりの提案は、都会にありがちな更地からの家づくりではなく、既存の庭や緑を活かし、行き交う人にも心安らぐ空間となるような家づくり=「環境共生住宅」で豊かなまちづくりへのひろがりが期待できます。

家づくりがまちづくりに!
まちづくりを行政に任せていて、果たして良い街並みができたのでしょうか?では、どうすればいいのでしょう。家電製品を取り入れ、家の中は快適ですが、一歩外に出たとたん、ほっとできる緑は少なくなり、快適さを求められる状況にありません。多くの人もきっと同じ思いのはずです。発想を転換すると、自分の住まいの環境を良くするための個々の取り組みが、住みよいまちづくりへとつながるのです。

体感温度の実験
会場の大理石の壁とテーブルクロスを手で触わり、冷たいのはどちらかを調べてみました。皆、大理石の壁の方を冷たく感じましたが、実際に温度を測ってみると両方とも同じ温度でした。体感温度と実際の温度は異なり、体感温度は体温が逃げていくスピードによって変わることを教えていただきました。私たちは、温度にこだわっていますが、快適な住環境を作るときに重要なのは、温度ではなく体感温度でした。そのことを理解し、上手く自然の働きを利用すると、機械に頼らずに快適さをつくることができます。

樹木は涼しさをつくる
夏、暑い街を抜けて緑に包まれた公園に入ると、とても涼しく感じます。木陰ができ、太陽の熱を遮るだけでなく、葉から水分が蒸散することで周りから熱を奪います。そして、暖かくて水分を含んだ空気は上昇し、逆に上空の冷たい空気が降りてくるという、空気の流れが風を作り、涼しさを感じるのです。樹木がもたらすその作用を住まい作りに上手く取り入れることで快適な住環境が生まれます。

甲斐さんの樹木を残し自然の恵みを利用した、今までにない発想でつくる「環境共生住宅」のお話は、コミュニティー作りもできるというメリットもあり、「やってみたい」「案外できそうだ」という感想を持ったのは私だけではないと確信しました。
                                  石井 みちこ