消えていく緑
いつも見慣れた住宅街の一角の風景。それがある日突然、相続の対策などでやむなく売り渡され更地になってしまうことがあります。そこには、やがてマンションなどが建ち、昔、何があったのか忘れ去られてしまいます。見慣れた風景が失われ、切り倒された庭木が産業廃棄物として処理されてしまうことは、寂しさとともに、不安が募ります。個人の力ではどうしようもない社会のしくみで、絡め取られているようにさえ思え、苦しくなります。近隣でマンション建設の反対運動が起こるのは、ひとつには緑がなくなることで人間としての命が脅かされていることを本能のどこかで感じ取って行動を起こしているのではないのだろうか?と、そんな思いが私の中にありました。
NPOによる、庭木救出作戦
緑を残していくために何ができるのだろうと考え始めたころ、「環境まちづくりNPOエコメッセ」〈以下エコメッセ〉が東京でスタートしました。エコメッセでは、それぞれの自治体で、環境テーマを決め、リサイクル・リユースショップを立ち上げ、その売上の一部を環境活動のための資金として積み立てています。
目黒区では、2003年11月、「水と緑」をテーマに「水・緑・木地」学芸大学店がスタートしました。開店当初、目黒・生活者ネットワークを通じて、「売却した土地の庭木を何とか残したい」との相談を受け、さっそく「緑の救出作戦」に取り掛かりました。不動産屋の御好意で取り壊しを待ってもらい、樹木の移植に実績のあるNPOの力を借り、柿の木は狛江にある古民家園に移すことができました。また、一本でも多くの木を残すために、近隣の方にもチラシをまき、里親の呼びかけをしました。それに応えて何人ものかたが庭木を引き取ってくださり、緑を残すことができました。思った以上に近隣の方も気にかけてくださっていたことがわかり、私自身感動しました。
人のネットワークで生き延びた木
今回の活動で感じたことは、もし仮り植えの土地があれば、もっと緑を残しやすいのに、ということです。また、都市の緑は、手入れがかなり負担となり、そこへ苦情でもあれば簡単に切られてしまっています。家が建て替わるたびになくなっていく緑、また、家があってもやむなく切らざるを得ない緑を救う手立てはないものでしょうか。緑の救出や木の手入れのために、市民が支援できるしくみを作り出していけたらと心から思います。
先日、古民家園に移植した「柿の木」が元気に育っている様子を持ち主の方にご報告することができました。すると、数日後「柿の木が根付き、新芽が出たとのお話、よかったです。ご近所にもらわれていった木々も元気に育っているようですね。いろいろお世話になりました。」とお手紙をいただきました。住んでいた人の想い出を大切にすることと「人のネットワーク」で庭木を植え替えることができたのは大きな成果でした。
環境まちづくりNPOエコメッセ副理事長 谷 嘉子